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    松田美優 『夜空に煌めく星の下』 大洋図書 2009年 … ややリリカルに

    夜空に煌めく星の下 (SHYノベルス)夜空に煌めく星の下 (SHYノベルス)
    (2009/02/27)
    松田 美優 (挿絵:奈良 千春)

    商品詳細を見る

    SHYからデビューした松田美優さん、通算5冊目の作品。

    高校生の智鶴は、下級生の紗綾から告白されてなんとなく付き合い始めるが、彼女の家で出会った兄・秋成に心奪われる。ある日、智鶴は思いがけず秋成と体を繋いでしまい、紗綾に対する後ろめたい気持ちと秋成への思いとの間で板ばさみになっていく。そして秋成も智鶴を遠ざけようとするが――という、付き合っている相手の兄を好きになっていく高校生を主人公に据えた、一種の不倫ともいえるストーリー。

    松田さんといえば、ワーキングクラスのオラオラ兄ちゃん×小悪魔高校生で不条理っぽいストーリーを書いてくる作家。たとえ無体な鬼畜や禁忌が描かれていても、どよーんと沈ませたり心をキリキリ痛ませることはなく、逆に読み手のほうが「それでいいの?」と驚いてしまうくらいあっけらかんとしている。サブカル系のスノッブさも見られないので、嫌味に感じられない。BL界でこういう作家はほかにいない…と思う。

    ただBL長編として作品を読んだとき、「エピソードにブツ切れ感・心情と背景が掴みにくい・キャラ相関が希薄」という箇所が散見されるためか、デビュー作『赤い呪縛』以降にヒットがなかった。作家が自分の書きたいものを楽しんで書いているうちはいい(もちろん、生みの苦しみはあったと思う)、でも商業ベースに乗っかったBLとなれば、アンケートハガキやネットで批評や感想が読めるので、なにがセーフ(≒ウケて売れる)でなにがアウト(≒敬遠されて売れない)なのかがわかってくる――千差万別な好みを持つ読者を抱えていても、実は意外と狭いジャンルだということを、松田さんが意識し始めたらどうなるのかな…と思っていた。

    一読後のファーストインプレッションは、松田さんは狭いジャンルの中で模索している真っ最中なんだな、というもの。「夜空に煌めく星の下」というタイトルといい(素敵だと思う)、ストーリー、キャラの心情、背景など、以前よりリリックの効いた作品を意識的に書こうとしているなと感じる。

    智鶴の日常が淡々と描かれる中、秋成と紗綾の間で揺れる心情がせつなく語られていく。ズルイ男の子かもしれない、だけれども彼が紗綾に対し後ろめたい気持ちを抱いているのがよく伝わってくるので、憎めない。以前より一文がやや短めでリリカルになったせいなのか、智鶴と秋成のやりとりでは橘紅緒さんが書くような空気が流れている(でも橘さんのような不思議な透明感はない…ビコーズ松田さんだから)。

    …と、このように受はいいのだが、攻の秋成がなんだか中途半端な印象を受ける。今までの作品ならば、攻キャラはただのオラオラ兄ちゃんで終わっていて、キャラの背景や受を思う気持ちがイマイチ、もしくはサッパリわからなかった。だが本作の攻である秋成は、どんな過去を持っているのか、どういう家族構成で(しかもなにやら義母に思いがありそう、という伏線まであり)、どんな仕事をしていて、どう周りから評価されているのか…といった攻の背景が意外と見える。ここが今までと大きく違う点。ただ残念ながら、いろいろ書いているのに攻の葛藤があまり伝わってこないし、ふたりの禁忌となる紗綾は物分りよすぎで都合よすぎ、義母の伏線も効果ナシという、いままでの松田さん路線まんまなものだから、なんだか釣り合いが取れてない。このあたりにバランスを保たせることが、これからの松田美優作品の方向性を決める一番のポイントなのかもしれない。

    一方的に受が自責しているような話が展開していき、強引にハッピーエンドに持ち込んだと感じる。もし両者イーブンで恋を描きたいのならば、攻が葛藤している様子がどこかに欲しい。でも攻を描きすぎては松田さんの「禁忌を軽く越える」個性が薄くなってヌルく感じる。当て馬キャラを安易に登場させないあたり、これまた松田さんらしいのだけれど、もう少し立った脇キャラが出てきてもいいように感じる(ここが「ウケるBLが持つ要素」なのかもしれない)。

    本作はいつもの松田作品ではないが、新しい松田作品とはいい切れない。前向きに評するならば、松田さんに新たな魅力が加わるかもしれないという可能性と希望が感じられる――途上の追い風に乗った作品だろうし、後ろ向きに評するならば、個性が消えて凡庸になっていく――向かい風によるブレーキがかかってしまった作品だろう。でも、これからどう風を読んで帆を張って操舵するかは松田さん次第。松田さんの持つ個性は、唯一無二、貴重だと私は思っている。誰にも似ていない魅力を持ち続けて欲しい、でもやっぱり面白いものが読みたい。結局、読者である私も引き摺られるように悩んでしまった気がする。

    寡作でも、頑固一徹「オラオラにーちゃん×高校生」でも、構まわない。ヒゲだって攻略次第だと思う。
    次回作に期待。

    評価:★★★(…途上の1本、かな?)
    松田さんって、車がお好きなんだろうなあ。車が出てくると、文章がイキイキしてくる。そして車選びも上手い。シーマじゃなく、ちょっと古いクラウンだなんて「らしい」よなあ。『赤い呪縛』でも、攻のオラオラにーちゃんが乗ってる車が黒のサバーバンだったりして、その選択に他のBL作家にはないキラリとしたセンスを感じる。

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
    「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@マークがつきます。
    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。

    *2009年3月15日に書いた感想を加筆修正

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    秋林 瑞佳

    Author:秋林 瑞佳
    「あきりん・みずか」と読みます。
    (BLCD感想はジョセフィーヌ秋太夫が担当)

    風来のネットサーファーにして、
    ハンパない映画ギーク。
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