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    松田美優 『巧みな狙撃手』 大洋図書 2007年 … オタク臭皆無

    巧みな狙撃手 (SHY NOVELS 192)巧みな狙撃手 (SHY NOVELS 192)
    (2007/08/30)
    松田 美優

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    ◆「巧みな狙撃手」リーマン×高校生
    表題作。早朝、いつものように犬を連れて森の中を歩いていた主人公(20代リーマン・職業SE)が、自家発電中の高校生をたまたま見つけ、その弱みを握って手ごめにするという、不道徳極まりない話。

    禁忌や背徳だけでなく不道徳の壁までヒョヒョイ!と飛び越えられるという、松田さんの身軽さには毎回感心する。素晴らしい。攻が「秘密を共有しよう」と受をそそのかして、「別に悪いことしてないもんねー俺たち」と和姦に持ち込む。そこに倫理はない。でも暴力もない。そのあたりが痛くならない理由か。主人公(攻)は遅刻しながらも会社へ行き、同僚にあっけらかーんと情事を話す。ノリは軽くても、頭の中はダークな姦計でいっぱい。ただ「巧みな狙撃手」というタイトルがもたつく。改題したほうが良かったような。

    ◆「甘美な試乗」自動車整備工×リーマン
    修理の終わった車を受取りに行った主人公が、担当整備工と試乗に出てみたら、いつの間にやら脱出不可能な場所に車を横付けされ、手ごめにされてしまう話。

    たしかにこれまた不道徳な話なんだけども、なぜか「ひどい!」と思わなかったその最大の理由は、松田作品なのに、攻は丁寧な言葉使いする意外とマトモな社会人で、店に出入りしていた受(こちらも意外とマトモなリーマン)のことがずっと好きだった、受も彼女はいるけど攻がいい男だったのでちょっと気になっていた――と、なにやら恋や愛の感じられる土台があったからである。そしてやっぱり暴力と痛みはない。しかもふたりは(松田作品なのに珍しく)大人同士。これは貴重だ、初めて好みに当たったぞー!…と喜んでいたら。

    車中でコトが終わって最初のひとことが――

    東堂(攻):「すみませんでした」
    本田(受):「……いえ」

    それで済むわけないやろーーーーーっ!!

    でもそれで済んでしまうのが松田作品(もはや免罪符)。

    脱出不可能な横付けシチュエーションもナルホド、こりゃ悪いヤツならしそうだなと思った。ただタイトルがヘンに固く、しっくりこない。それが残念。

    ◆「制裁」問題体育教師×高校生
    倫理観薄めなイマドキ高校生が、先生をからかっていたら、鬼畜な本性を出した先生に体育倉庫へ連れ込まれ、手ごめにされてしまう、タイトル通りな話。

    不道徳極まりない、見つかったら即タイホ!な高校教師(攻)は『不道徳な闇』の笹川に、受は『赤い呪縛』の日向に似ている。もしかしたらそれらのベースがこの作品だったのかも。惨いのに陰湿にならない、オタクっぽさが皆無なところは相変わらず素晴らしい。ぼや~っとしたエンディングは好みが分かれる。

    ◆「トモダチカンケイ」友人同志
    身体を繋ぎたがる攻と友だちに戻りたい受による、ただただヤリっぱなしな話。

    攻が受に飽きるときがくるのか。仮にそのときが来たとして、ふたりは友だちに戻れるのか。私はこのほとんどストーリーのない話に行間からせつなさを感じる。

    ◆「犬と餌」風俗店支配人ヤクザ×バイト
    仕事で失敗した受に制裁を加えるヤクザの話(『自己破壊願望』のベース?)。

    驚愕したことがひとつ。

    大麻が出てきた。キッチリ「大麻」と書かれてある。抱かれる報酬として毎回、受が攻から受け取り、自らの意思でハッパ吹かす。そしてそれが「逃げられない相手に恋愛感情を持ってしまって壊れていく自分への唯一の救い」だと受は思い、語る。BLではタブーかもしれないこの描写をよく許したと思う。

    ◆「死ぬほどキスしてくれ、ベイビー」フリーター×小悪魔
    ちょっとした好奇心から男の子に手を出してみたら、本気になってしまった攻(フリーター)の話。

    ほとんどヤリっぱなし。あいかわらず松田美優の描く攻は、倫理観のうすーいイマドキにーちゃんで、「……ヤラせてくれ」というストレートな物言いがとてもよく似合う。逆にそんなセリフがないと松田作品を読んだ気がしない。攻が手を出した男の子は攻の友人が好きだという設定なので、攻は完全に横恋慕なのだが、男の子も他の男が好きなのにアッサリ攻に抱かれてしまう。なんという節操のなさ。

    松田さんの十八番だと思われる作品なのだが、ここにきてようやく気付いた。攻と受の間には一種、体育会系的な関係とノリがある。だからなのか受が従順である。どんなに小悪魔でも手に負えない受は出てこないし、攻も受に多少の無理は強いても結局は優しい。だから痛くない。

    タイトルが素晴らしい。松田作品によく似合う。

    ◆「堕ちていく」義父(40代)×息子(高校生)
    男にしか興味のない高校生が、自ら仕掛けて母親の再婚相手(つまり義父)と関係を持ち、セックスで快楽を得ながら深みに嵌っていくという、いままでの作品とは明らかに一線が引かれた閉塞感のある背徳的な作品。

    「なーんだ体育会系じゃーん!」と気付いたあとに、いきなりこれである。

    朝、妻と寝ていたベッドで義理の息子を抱く義父――なんとも強烈な背徳ぶりだが、注目すべきは、攻の義父は穏やかな物腰の落ち着いた大人、受は大人びたシニカルな高校生だということ。ともに松田作品では異色のキャラであり、「そういうキャラも書くのか!」とちょっと嬉しくなった。

    閉塞感と背徳に満ちたふたりがタイトル通り「堕ちていく」1本。
    松田美優なので痛くない(ただし独特の冷たさがある)。

    ◆「掴み取れない」義父(40代)×息子(高校生)
    「堕ちていく」の続き。

    温厚に見えて実は冷ややかな義父と、大人びていてシニカルに物事を見がちな息子。身体の快楽のみ、そこに愛はない――そう割り切って始まった関係なのに、嫉妬という人間らしい感情が芽生えたことで次の局面を迎える。誘った息子が負け?勝ったのは義父?…はたして本当にそういえるのか――余韻を残してぼや~んと終わっていくので、よくわからない。ただこれはこれでいいように思える。ダークで不条理な話に、わかりやすいオチでめでたしめでたし♪というのは似合わないし、この内容ならば、読み手に結末を委ねていいと思う。

    総合評価:★★★☆(奈良画伯と一番相性がいいのは、今でも松田作品だと思っている)
    ご本人直筆で「ひたすらヤってます」(大洋図書HPのPOPより)とあっけらかーんと書かれてしまっては、もう下向いて「そうですかー…」としか云えない、マジで「ひとりエロとじv」状態の短編集だった。

    エロより印象が残ったのは、そのオタク臭のなさ。それはデビュー作から顕著であり、マネできないレベル、他の作家が同じような描写をしても松田さんのような雰囲気は出せないと思う。また松田さんが書く作品は起承転結がキッチリしておらず、一区切りの場面が繋げられたものなので、今まで読んだ長編はその区切りの繋がりが雑だったために場面場面でプツンと切れた印象があった。

    BLは起承転結のあるハッピーエンドな作品が求められる。松田さんのような一区切りで不条理を書いてくる作家や、そういう作品にはどうしても辛口評価がついてしまう。本作も密林では2つ星評価で「どの話も魅力なし」「全体にボヤ~ッとしている」と書かれてしまっていて、たぶん本も売れてない。私なんかは、「ヤってるだけ」だとしても、繋がりが雑な長編より本作のような短編のほうがいいと思うんだけどなあ。アンハッピーエンドな作品だって実は1本もないのに。ここまできたらもう好みの問題。私はホメたけど、たぶん理解不能な人は多いと思う。

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    *2007年12月20日に書いた感想を大幅改稿

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    秋林 瑞佳

    Author:秋林 瑞佳
    「あきりん・みずか」と読みます。
    (BLCD感想はジョセフィーヌ秋太夫が担当)

    風来のネットサーファーにして、
    ハンパない映画ギーク。
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