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    鹿住槙 『死ぬまで純愛』 日本文芸社 2008年 … 若さゆえの青く一途な思い

    死ぬまで純愛 (KAREN文庫Mシリーズ)死ぬまで純愛 (KAREN文庫Mシリーズ)
    (2008/03)
    鹿住 槇

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    10代の頃の自分はいったいなにを考え、感動し、笑い、怒り、そして泣いたのか。
    学校の友だちと交わした、たぶん他愛もなかっただろう話題はなんだったのか。

    存外遠くなってしまった昔日の日々に、ふと思いを馳せるときがある。

    私の好きな1冊『ぼくは勉強ができない』のあとがきで、作者の山田詠美が「私は、同時代性というものを信じない。時代のまっただなかにいる者に、その時代を読み取ることは難しい。叙情は常に遅れてやって来た客観性の中に存在するし、自分の内なる倫理は過去の積木の隙間に潜むものではないだろうか。私にとっての高校時代は、もう既に、はるか昔のことである」と書いていて、それを読んだとき非常に共感した。

    そして高校時代の自分を客観的に見ることができる今、日々に客観性を求めることの意味を知らない高校生をシンプルに描いたBLはないだろうか?と思っていたら、日本文芸社から鹿住槙の『死ぬまで純愛』が出た。

    「俺があいつであいつが俺で」、いわゆる人格・身体入れ替わりモノ。主人公・認が入れ替わるのは男の子ではなく女の子、しかも親友・高志の彼女である。なぜ入れ替わったのか。湖で溺れたふたりのどちらかを助けてやろうと湖の精に云われ、高志がとっさに望んだのは「心は認、体は楡崎(彼女)」。そのため目覚めた認は女の子になっていたという、入れ替わりの理由付けに寓話「金の斧・銀の斧」を引用した話である。

    認の一人称でストーリーが進行するため、高志が認をどう思っているのかはわからないことになっているが、「どちらかを選べない」と云いながら「心は認、体は楡崎(彼女)」と願いを乞うた時点で、高志は認を好きなのだと読み手は気がつくだろう。のちに高志が告白するように、「認が女になってしまえば、男同士というハードルは乗り越えられる」と咄嗟に打算が働いたわけで、彼女なのに心を否定された楡崎と、男なのに女を強いられることになる認には残酷な仕打ちである。

    あらすじを読むと、認をひどい目に遭わせるだけの青春残酷ストーリーのように思えるが、そうではない。たしかに、高志は混乱する認に対してあるひどい行為をするし、その言動もずいぶんと身勝手だ。だが認は認でやられっぱなしなわけではなく、真剣に楡崎の死について考え、10代で逝ってしまった彼女の存在意義を語り、高志を問い詰めていく。高志は高志で「自分が好きなのは、残酷な目に遭わせてまで手に入れた認なのか、それでいいのか」と悩み、認が元に戻る方法を知りながら、戻ったときに彼を失うかもしれない怯えと葛藤に苦しむ。

    楡崎の死には、入れ替り以外のある真実が隠されている。それを知りながら、知らないふりをしていたふたりの罪。死に慣れていない高校生にとって、クラスメイトの死は衝撃だったはず。がむしゃらに何かを求めること自体はいい。ただそれをすることによって、誰かを深く大きく傷つける可能性があるということを高志は思い知る。そして認が最後に選択したのは「高志のそばにいること」、つまり「楡崎が一番嫌がること」。

    認が高志に伝える、「一生、純愛しよう」という言葉。

    綺麗ごとだ、まだ10数年しか生きていないくせに、バトルフィールドである社会に出てさまざまな風を受けてみろよ、そんな甘ったるいこというな、一生だなんてできるわけないだろう…違う、そうじゃない。「純愛なんて無理」という大人の擦れた視点はどうでもいい、あの日あの時あの場所で彼らがそう思ったこと――それが重要なのである。当時の彼らにとって、それがすべての領域そして世界だったのだから。

    授業中こっそりノートの端に書いた好きな曲の歌詞や誰にも云えなかった本音、クラスの誰と誰が付き合って別れたのかという噂話、他愛もないことに感動したり、なにかに絶望して明日で終わりかとまで思い詰めたこと、簡単に「死ぬまで」「一生」と口に出して云えた幼い自分――今となっては、すべて遠い日々のこと。

    『死ぬまで純愛』は、1991年「JUNE」に掲載された作品なので、タイトルを聞いて「懐かしい」と思う方もいるだろう。他雑誌掲載の1編と書き下ろしを加えた短編集として、20年近くの時を経て、このたび初文庫化となった。あとがきによると、JUNE時代から担当者は同じだそうである。

    私は、なぜその担当者が当時からこの作品にこだわったのか、わかるような気がする。本作のように萌えを基準とせず、瑞々しいまま青春を切り取ったBL小説は最近あまり見られない。JUNE時代はそんな作品が多かったのかと訊かれると、実はよく覚えていないので即答しづらいのだが、BLよりは約束事(≒読者が求めるもの)に縛られることが少なかったように思える。そんな時代を通しても、私は本作が鹿住槙のベストだと思うし、同世代以上の方にはそんな私の気持ちを理解して頂けるだろうと信じている。

    会話が古臭く、文章は三点リーダ(「…」)とダッシュ(「―」)花盛り。そんな記号多用の感情表現はカンベンして欲しいと、私には読みづらくて仕方がなかった文章も、これはこれでいいかなと今になってようやく思えるようになった。そして今回の文庫化で『死ぬまで~』の続編を書かず、そっとしておくことにした鹿住さんは英断を下されたと思う。

    他の収録作も面白い。とくに三本目の書き下ろし『君の知らない二人の秘密』は、BLらしさがあるので、表題作にピンとこなかった方にはこちらのほうがオススメ。安心して読める作品に仕上がっていると思う。

    評価:★★★★★(くすんだ青さが瑞々しく感じる…ブリリアント!)
    BL世代にはとても古く感じる作品だろうなあ。私にはその古さが瑞々しくてたまらないんだけど。

    秋田書店プリンセス系で活躍されていた津寺里可子さんが挿絵担当だったので、ビックリした。津寺さんのお描きになる女の子は、少女マンガの王道といえる愛らしさがあり、男の子は大人っぽく凛々しく麗しい。セピア調にくすんだ水色を背景にした表紙絵は、作品イメージにピッタリ。画像ではその水色や髪の美しさと質感がわかりにくいので、気になる方はぜひお近くの書店でお手に取ってご確認を。ちなみに秋林、「花瓶に一輪挿しの椿の花が萼からポトリと落ちた瞬間」を描いた口絵カラーに、「BLのカラー口絵?」と驚いてしまった。

    それと。収録作「スクラッチノイズ」の挿絵を雑誌掲載時に担当された桜海さんが、2005年にご病気で亡くなられたことを、遅ればせながらあとがきで知った。たしか桜海さんは、鹿住さんとご一緒に活動されていたはず。志半ばで逝く友を葬(おく)らねばならなかった鹿住さんのご心痛を思うと、どう言葉で表せばいいのか…やるせない気持ちで一杯である。せつない。

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
    「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@マークがつきます。
    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。


    *2008年3月24日に書いた感想を大幅改稿
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    プロフィール

    秋林 瑞佳

    Author:秋林 瑞佳
    「あきりん・みずか」と読みます。
    (BLCD感想はジョセフィーヌ秋太夫が担当)

    風来のネットサーファーにして、
    ハンパない映画ギーク。
    そしてなにかと悩める電脳仔羊。

    気の向くまま、
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