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    榎田尤利 『交渉人は嵌められる』 大洋図書 2010年 … ギュウ詰めコンゲームとマクガフィン

    交渉人は嵌められる (SHYノベルス)交渉人は嵌められる (SHYノベルス)
    (2010/07/29)
    榎田 尤利 (挿絵:奈良 千春)

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    前作『交渉人は振り返る』で示唆された芽吹の過去と、天才詐欺師・環の登場によって、仕事だけでなくラブまで揺るがされてしまう芽吹と兵頭たちを描いた「交渉人」シリーズ第4作。『交渉人は諦めない』と同時発売。

    依頼を受けた芽吹が兵頭をマネてヤクザに化けていたり、不器用に人生を歩んできたけれど手先は天才的なほど器用に動く掏摸師・志津のドジな詐欺ぶりなど、いつものように軽やかで楽しいエピソードから物語はスタートする。だが事務所に送られてきた1本のUSBメモリによって、本題へと切り替わる。過去に兵頭と関係のあった詐欺師・環が登場し、「相手を信じたい」と思う芽吹をあざ笑うかのように次々と騙していく。その手口はゲームのように鮮やかで、誰も「騙された」と気づかない。対抗するうちに芽吹は環とコンゲーム状態になるが、最後に兵頭を失うという一撃を食らってしまう。さてどうする?――4巻はここまで。

    芽吹の過去、兵頭のラブ&トラストクライシス、現代を反映する世相や詐欺師との理屈こねくりまわし対決など、さまざまなエピソードをギュウっと1冊に詰めに詰め込んだ作品になっていた。カメラ切り替わりの三人称が多くなったので、芽吹と兵頭をより客観的に見ることができるし、ふたりを巡るキャラにフォーカスが絞られることで彼らへの親しみもぐんと増す。ギュウ詰めが「交渉人」シリーズのスタイルとはいえ、今回はさらにてんこ盛りといった感がある。これだけのものをまとめて次巻への布石とする――テクニカルな1冊といっていいだろう。

    シロとグレー、ふたつのUSBメモリが出てくる。それらには何が隠されているのか。シロは芽吹にとって過去の自分――弁護士時代に手がけた事件の証拠になるかもしれないものであり、グレーについては具体的に語られていない。USBメモリはマクガフィンなんだと思う。つまり芽吹や兵頭にとっては重要だが、読み手に対してその説明はほとんどなく、仮に何であるかが判明しても「なんだそりゃ?」で終わってしまうもの(=別になんだっていい)。BLの感想でコンゲームだのマクガフィンだの、そんなジャンルやテクニックを表す用語を使うなんて思ってもみなかった。USBメモリがなんなのかはさほど問題ではなく、重要なのは――芽吹と兵頭がひとりの詐欺師によってラブ&トラストを試され、そのダメージで素に戻ってしまった姿をふたりの周辺と読み手に晒したということ。『嵌められる』におけるポイントのひとつであると思う。

    それを読みたい/求めたい人には「そりゃ彼らだって人間だもの、愛と仕事は比べられない」だろうし、そうでない人には「交渉人としてどうよ?」「ヤクザの若頭のくせにだらしない」だろう。私は断然前者である。「交渉人」は、もともと人間味溢れる話だから。ただ今回は、いままで以上にいろんな要素のある話をギュっと詰め込んでいるせいかどのエピソードにも余裕がなく、ひっきりなしにスターターが鳴る短距離障害走のようで、走るのは芽吹たちでも息切れするのは読み手かもしれない。

    中でもったいなかったのは、芽吹の棲む色褪せた世界が総天然色になる瞬間を描いた大学時代の放浪話である。本来であれば、もっと頁を割いて語られる話だろう。芽吹の友人である若林の人となりは、あれだけではわかりづらい。エピソード自体はとてもベタでクサいが美しい。思い出は大切であるほど、時の流れとともにキラキラと美化されていくもの。それは芽吹でも同じだったようだ。だがあの美化されたエピソードだけでは、若林が「芽吹に信じてもらえなかった」ことに絶望する男のようには思い難い。人間は複雑な生き物で表と裏があったり、時に矛盾した行動をしたりする。芽吹を旅に引っ張り出した男と信じてもらえず絶望した男の本心は、それぞれ別にあったのかもしれないし、社会人になって芽吹と再会するまでに変ってしまったのかもしれない。「交渉人」シリーズで出てくる過去の話は、どれも重要なのに基本触り程度なので、読み手のイマジネーションを必要とするなとこのエピソードを通してあらためて思った。

    ラブとコンゲームの行方は、『交渉人は諦めない』にて。

    評価:★★★★(一番スゴいヤツって、あの兵頭からブツをスった志津じゃない?)
    リンクさせて頂いている「30代半ばにしてやおいにハマる」のlucindaさんが、「36歳以上の人が挙げた好きな作家には榎田尤利さんの名前が目立つけど、35歳以下の人には見かけない」と書かれていて(→こちら)、その理由に思いっきり膝打ち。ズバリだと思う。作家の年齢が自分と近ければ、おのずと惹かれるものや求めるものが一致したりするんだろうなあ。

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
    「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@マークがつきます。
    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。


    *2010年8月16日に書いた感想を加筆修正

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    秋林 瑞佳

    Author:秋林 瑞佳
    「あきりん・みずか」と読みます。
    (BLCD感想はジョセフィーヌ秋太夫が担当)

    風来のネットサーファーにして、
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