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    榎田尤利 『交渉人は振り返る』 大洋図書 2009年 … インナー・ビターネス

    交渉人は振り返る (SHY NOVELS 230)交渉人は振り返る (SHY NOVELS 230)
    (2009/05/28)
    榎田 尤利 (挿絵:奈良 千春)

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    矛盾や不条理がまかり通っているこの世の中、理屈をこねて生きようとすれば、どこかに必ず無理が出る。

    過去に受けた心理的外傷や挫折、苦しみというものはふとしたきっかけで生々しく蘇り、経験や信念や自信で以って築き上げてきたはずの地盤を容赦なく一気にグラグラと揺るがす。いままでの自分を形成してきたといえる強いようで実は脆いそれらが、「俺だからできる」という自己陶酔ではなく「俺はこうありたい、こうあるべき、こうであれ」といった自己暗示による産物であったら?

    弁護士時代に弁護を担当して裁判には勝ったものの、心に苦いしこりと大きなダメージを残す結果となった過失致死事件の被告・朝比奈と、今度は民間の交渉人という立場で芽吹は再会する。たとえ民間の交渉人でも、法が絡む依頼はそれなりに来るだろうし、その場合、交渉人は依頼人の不利益にならないように法律を解釈する知識や判断力が求められるだろう。だが、弁護士と交渉人では決定的に違う点がある。交渉人は弁護士のような、社会的・職務的に「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする(弁護士法第1条1項)」立場にはなく、またそれを求められてもいない。

    「検事は向いてなかった、弁護士はもっと向いてなかった、身の丈に合わないんだ」と云っていた芽吹だが、1〜3巻を読んでみて――そうだろうなあ、たしかにこれでは向いてない、法律家としての理想と現実の差にぶつかっただの才能がなかっただのという理由で辞めたというより、性格的に優しすぎて割り切れてない、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」を建前にすることさえなんだか苦労していたような、自己暗示ですべてを割り切ろうとしていたような、そんな検事&弁護士だったように思えた。もちろん交渉人になったからといって、芽吹が人権を軽んじたり正義を疎んじているわけではない。その突出した弁巧や理屈をこねる能力を、関わった人間それぞれの人生を大きく変えてしまう裁判のような絶対的なものより、もっと身近に話し合える民間の交渉事に使うほうが向いていると判断しただけで、それはそれで選択として間違ってない、前向きに自分をとらえて転向したなと思う。ただ、芽吹にダメージを与えた事件は他にもあると3巻で示唆されたので、そのあたりは決め付けずにもう少し見守りたい。

    交渉人として朝比奈を救うことはできず、結果的に同じ人物からまた別のダメージを受けることになってしまった芽吹。内なる苦しみに対峙したとき、自分がいったい誰を求めているのか、3巻にしてようやくぼんやりと自覚したようだ。もともと自分の気持ちに鈍感なうえ、兵頭となにもかも違いすぎることが目くらましになっていたのかもしれないが、高校時代からその対象が兵頭であったことは明白であり、芽吹は本能で彼を求めていたのと思う。再会した1巻、ドタバタやりながら少しずつ距離が近くなっていった2巻、芽吹の心理をセンシティブに描いた3巻。4巻はどうなるだろう?

    ラブの進展だけでなく、巻を追うごとに芽吹を巡る人々が増えてその絆が強くなっていくところも「交渉人シリーズ」の面白さだと思う。ネゴオフィスで働くさゆりさんにキヨ、兵頭の舎弟ズ、力士の花吹雪、アヤカに智紀、ホストのミツオ、そして芽吹の過去を知る弁護士・七五三野。みんな芽吹のことが好きで、彼を助けようとする。それは芽吹が人間として魅力的だからだ。

    「強いのか弱いのかわからない」と七五三野は云っていたが、たしかに芽吹は他人から見れば危なっかしく、無理をしているように見えるかもしれない。でも彼は自分の弱さを知っているし、傍には兵頭、まわりには仲間がいて、みな芽吹を察してくれている――それでいいんじゃないかと私は思う。ただ、芽吹だって毎回上手く立ち回れるわけではなく、失敗もするし、他人には理解しがたい内なる苦しみを抱え込んでしまうときもある。ドラッグで落ちてゆき、普段は明るく理知的な芽吹の苦しみが暴かれてゆくさまは読み手をどうしても暗い気分にさせてしまうが、芽吹を知るうえで外せないエピソードなので、彼と一緒に落ちていくような気持ちで読んだ。3巻はもっともエダさんらしい作品であり、深層心理をセンシティブについたストーリーになっていると思う。

    人間というのは複雑な生き物だなと、しみじみと感じ入ってしまった1本。

    @RECOMMEND@
    評価:★★★★☆(画伯ー!巻を追うごとに芽吹のルックスがどんどん若くなってきてますー!)
    絵師は引き続き、奈良千春画伯。2巻の感想でも書いたように、「挿絵は最後の最後ですんごいの♪」は、どうやら「交渉人」のお約束になったようで、この3巻でも最後の最後に画伯入魂のクリップ止め必至カットが登場。そして、これまた2巻の感想と同様、なんだか過去に同じような構図の同じような絵を見たような気がしたので、再び脳内検索の旅に出たらば――『エス』第1巻のカラー口絵のあった宗近&椎葉と同じなんだと気がついた。『エス』と『振り返る』の絵柄はかなり違うのだが、同じ構図で見ると「ああ、やっぱり奈良画伯だわー♪」と感じる(2巻と同じ)。

    4巻がいつ発売になるかわからないけど、画伯は半年でも油断ならないお方なので、きっとその頃にはまた変わられているんだろうなあ…<絵

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
    「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@マークがつきます。
    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。

    *2009年6月21日に書いた感想を加筆修正
    「交渉人」3巻の表紙を見た瞬間に思い出したのが――

    堕ちゆく者の記録 (キャラ文庫)堕ちゆく者の記録 (キャラ文庫)
    (2009/01/27)
    秀 香穂里

    商品詳細を見る

    この表紙を見たとき「うわ〜、高階さん、奈良画伯っぽい構図だなあ」と思ったのは事実。マネしたとかそういうことをいいたいのではなく(ってか、そんなこと思ってもいないし、実際こっちのほうが「交渉人」より先に出ているんですよね)、私が興味深かったのは、高階さんと画伯の持つ個性は方向性がまったく違うのに、絵師の立場で「落(堕)ちてゆく者+見守る者」を解釈するとこういう構図になるんだなあということです。もちろん、たまたま同じになったのでしょうけど。

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    プロフィール

    秋林 瑞佳

    Author:秋林 瑞佳
    「あきりん・みずか」と読みます。
    (BLCD感想はジョセフィーヌ秋太夫が担当)

    風来のネットサーファーにして、
    ハンパない映画ギーク。
    そしてなにかと悩める電脳仔羊。

    気の向くまま、
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