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    榎田尤利 『交渉人は諦めない』 大洋図書 2010年 … 事実が真実とは限らない

    交渉人は諦めない (SHYノベルス)交渉人は諦めない (SHYノベルス)
    (2010/07/29)
    榎田 尤利 (挿絵:奈良 千春)

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    USBメモリを奪った天才詐欺師・環の容赦ない攻撃に対し、このまま黙って負け続けるわけにはいかない芽吹たち。キヨ、智紀、志津、アヤカにさゆりさん、七五三野らは打倒・環に奮起するも、敵の仕掛けるコンゲームに振り回されっぱなし。兵頭を失った芽吹はというと、やっぱり元気がない状態。チーム芽吹に勝算はあるのか?そして兵頭と芽吹の恋の行方はどうなる?――『交渉人は嵌められる』の続き。

    舌鋒鋭い芽吹はどこへやら、情けない姿をまわりに晒しながら始まる『諦めない』。本編中でもっともわかりやすく真理をついていたのは、ダメージ受けてボロボロにされた芽吹の言動ではなく、環を反面教師にして智紀が悟る「大切なのは、人として真っ当であるかどうか」、キヨが環の対決で云った「愛や信頼は生まれるもの」だったと思う。どちらもシンプルなぶん、心により深く響く。環は気づくだろうか?一生無理かもしれない。

    そんな環とのコンゲーム。「信じたくて」反撃を始めた芽吹が環に鎌を吹っ掛けたクライマックスは、「スティング」というより法廷モノ(Courtroom Drama)「ア・フュー・グッドメン」のようだった。環のような自惚れタイプには、多少ロジックに無理が生じて辻褄が合わなくなったり、ハッタリをきかせることになったとしても、とにかく「自分がやった」とさえ云わせてしまえばいい――つまり自滅へと追い込んでいくのがセオリー。実際、環はジャック・ニコルソンasジェセップ大佐化、捨て台詞「お前は真実に耐えられないんだよ!」と云いそうだった。結局云ったのは「それは確かな事実だ、忘れるなよ!」。たしかに芽吹には忘れられない事実だと思う…でも、事実が真実とは限らない。芽吹と兵頭がラブ&トラストでそれを証明してくれた。今回の2冊はそんな話でもあったと思う。

    環を選んで芽吹を裏切っただの傷つけただの…たしかに兵頭の行為は芽吹にとってひどいものであり、「仕方がなかった」と理性で割り切ろうとしたって、本心ではそうはいかない。ただ3巻までの芽吹だって、兵頭のポジションをハッキリとまわりに示していなかったのだから、兵頭は不安で複雑な思いを何度もしていたはず。兵頭だから、ヤクザだから傷つかない…ということはない。実際「おまえは、俺を信じているか?」という芽吹の問いに、「惚れた相手ほど、信じられない」(3巻『振り返る』)と答えていたのだから。そんな兵頭が芽吹を信じ、冷淡な態度や行為を取った。芽吹がどんなに「兵頭は自分を信じている」と思っても、あんな行為を目の当たりにすれば、心は正直に悲鳴を上げる。ただ兵頭のほうも無傷ではなく、舎弟たちの目にまでそのダメージがしっかり映っていた。心とうらはらな態度を取らざるを得なかったふたりを思うと、せつなくなった。だからこそ、ラストであれほど情熱的に体を重ねたのだろう。

    結果として環に勝ったとはいえ、交渉人として「相手をいい気持ちにさせなきゃ、交渉は成り立たない」(1巻『黙らない』より)はずなのに、それができなかったのだから、心底喜べる結果だとはいえない。誰かからの依頼ではなく(ほぼ)自分のために環と戦って勝った、でもそれで若林が戻ってくるわけじゃない。読み手以上に、芽吹は後味が悪かったと思う。それでも陽が昇って明日はやってくる。どんなに絶望し、嘆き悲しんでも。

    芽吹が他の登場人物や読み手に愛される理由、それはたぶん…彼がとても人間味に溢れ、喜びや悲しみ、希望や挫折を知っている――七回転んで八回起き上がってきた人だからだと思う。彼はまわりに影響を与える。そして愛と信頼が生まれる。これからも芽吹はすっ転ぶだろうが、傷つき萎えた足で立ち上がろうとする彼に差し伸べられる手は、今よりも増えているはず。

    登場キャラひとりひとりの感情を想像しながら、一気に読んだ。
    コンゲームらしくアイテムが効果的にちりばめられているので、再読も楽しめる1本。

    @RECOMMEND@
    評価:★★★★★(エダさん、作家生活10周年なんですねー)
    昨年復刊した魚住シリーズで(単行本)デビューしたエダさん。私はそのデビュー作を読んだ後、しばらくこの世界から遠ざかり、そして数年前に本格的(?)に戻ってきたんだけども…私が離れていた間にエダさんはずいぶんとエンタテイメント性の高い作品を書く作家になっていた。変った…というより、なるべくしてなったというか。私はエダ信者ではないので、著作には「あんまり面白くない」「その展開はどうよ?」「先行作品がマンガであるんじゃない?」というのもあるけれど、基本エダクオリティは高い。作品を読んで察するに、それはエダさんが自分の書きたいものを「どうやったら楽しんで読んでもらえるか」というスタンスで書いていて、自分自身に酔っていないからなんだと思う。

    「魚住くん」から10年で「交渉人」。魚住くんにしろ交渉人にしろ、根っこにあるものはとても似ていてアプローチが違うだけなんだと(私は)思う。どちらも実際にいそうなキャラが多く登場し、主人公はそれぞれ性格は違うけれど不幸な過去があり、その影響なのか、死への誘いがときどきちらついたりする。だけど人との関わりや繋がりによって、そんな主人公の世界に変化がもたらされていく。「魚住くん」は一般文芸として読める内容かもしれないけど(特に最初のほう)、「交渉人」はやっぱりBL読者向け。それにプラスして、主人公がまわりに与える影響の大きさがエンタテイメントを通して描かれている。そこに10年を感じた。

    私が若林だったら。同じように笑って「もういいよ、とっくにいいんだってば…ってか、こっちのほうが見てられないよ」って、芽吹に云うかな…。

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
    「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@マークがつきます。
    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。


    *2010年8月22日に書いた感想を加筆修正

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    榎田尤利 『交渉人は嵌められる』 大洋図書 2010年 … ギュウ詰めコンゲームとマクガフィン

    交渉人は嵌められる (SHYノベルス)交渉人は嵌められる (SHYノベルス)
    (2010/07/29)
    榎田 尤利 (挿絵:奈良 千春)

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    前作『交渉人は振り返る』で示唆された芽吹の過去と、天才詐欺師・環の登場によって、仕事だけでなくラブまで揺るがされてしまう芽吹と兵頭たちを描いた「交渉人」シリーズ第4作。『交渉人は諦めない』と同時発売。

    依頼を受けた芽吹が兵頭をマネてヤクザに化けていたり、不器用に人生を歩んできたけれど手先は天才的なほど器用に動く掏摸師・志津のドジな詐欺ぶりなど、いつものように軽やかで楽しいエピソードから物語はスタートする。だが事務所に送られてきた1本のUSBメモリによって、本題へと切り替わる。過去に兵頭と関係のあった詐欺師・環が登場し、「相手を信じたい」と思う芽吹をあざ笑うかのように次々と騙していく。その手口はゲームのように鮮やかで、誰も「騙された」と気づかない。対抗するうちに芽吹は環とコンゲーム状態になるが、最後に兵頭を失うという一撃を食らってしまう。さてどうする?――4巻はここまで。

    芽吹の過去、兵頭のラブ&トラストクライシス、現代を反映する世相や詐欺師との理屈こねくりまわし対決など、さまざまなエピソードをギュウっと1冊に詰めに詰め込んだ作品になっていた。カメラ切り替わりの三人称が多くなったので、芽吹と兵頭をより客観的に見ることができるし、ふたりを巡るキャラにフォーカスが絞られることで彼らへの親しみもぐんと増す。ギュウ詰めが「交渉人」シリーズのスタイルとはいえ、今回はさらにてんこ盛りといった感がある。これだけのものをまとめて次巻への布石とする――テクニカルな1冊といっていいだろう。

    シロとグレー、ふたつのUSBメモリが出てくる。それらには何が隠されているのか。シロは芽吹にとって過去の自分――弁護士時代に手がけた事件の証拠になるかもしれないものであり、グレーについては具体的に語られていない。USBメモリはマクガフィンなんだと思う。つまり芽吹や兵頭にとっては重要だが、読み手に対してその説明はほとんどなく、仮に何であるかが判明しても「なんだそりゃ?」で終わってしまうもの(=別になんだっていい)。BLの感想でコンゲームだのマクガフィンだの、そんなジャンルやテクニックを表す用語を使うなんて思ってもみなかった。USBメモリがなんなのかはさほど問題ではなく、重要なのは――芽吹と兵頭がひとりの詐欺師によってラブ&トラストを試され、そのダメージで素に戻ってしまった姿をふたりの周辺と読み手に晒したということ。『嵌められる』におけるポイントのひとつであると思う。

    それを読みたい/求めたい人には「そりゃ彼らだって人間だもの、愛と仕事は比べられない」だろうし、そうでない人には「交渉人としてどうよ?」「ヤクザの若頭のくせにだらしない」だろう。私は断然前者である。「交渉人」は、もともと人間味溢れる話だから。ただ今回は、いままで以上にいろんな要素のある話をギュっと詰め込んでいるせいかどのエピソードにも余裕がなく、ひっきりなしにスターターが鳴る短距離障害走のようで、走るのは芽吹たちでも息切れするのは読み手かもしれない。

    中でもったいなかったのは、芽吹の棲む色褪せた世界が総天然色になる瞬間を描いた大学時代の放浪話である。本来であれば、もっと頁を割いて語られる話だろう。芽吹の友人である若林の人となりは、あれだけではわかりづらい。エピソード自体はとてもベタでクサいが美しい。思い出は大切であるほど、時の流れとともにキラキラと美化されていくもの。それは芽吹でも同じだったようだ。だがあの美化されたエピソードだけでは、若林が「芽吹に信じてもらえなかった」ことに絶望する男のようには思い難い。人間は複雑な生き物で表と裏があったり、時に矛盾した行動をしたりする。芽吹を旅に引っ張り出した男と信じてもらえず絶望した男の本心は、それぞれ別にあったのかもしれないし、社会人になって芽吹と再会するまでに変ってしまったのかもしれない。「交渉人」シリーズで出てくる過去の話は、どれも重要なのに基本触り程度なので、読み手のイマジネーションを必要とするなとこのエピソードを通してあらためて思った。

    ラブとコンゲームの行方は、『交渉人は諦めない』にて。

    評価:★★★★(一番スゴいヤツって、あの兵頭からブツをスった志津じゃない?)
    リンクさせて頂いている「30代半ばにしてやおいにハマる」のlucindaさんが、「36歳以上の人が挙げた好きな作家には榎田尤利さんの名前が目立つけど、35歳以下の人には見かけない」と書かれていて(→こちら)、その理由に思いっきり膝打ち。ズバリだと思う。作家の年齢が自分と近ければ、おのずと惹かれるものや求めるものが一致したりするんだろうなあ。

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
    「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@マークがつきます。
    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。


    *2010年8月16日に書いた感想を加筆修正

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    榎田尤利 『交渉人は振り返る』 大洋図書 2009年 … インナー・ビターネス

    交渉人は振り返る (SHY NOVELS 230)交渉人は振り返る (SHY NOVELS 230)
    (2009/05/28)
    榎田 尤利 (挿絵:奈良 千春)

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    矛盾や不条理がまかり通っているこの世の中、理屈をこねて生きようとすれば、どこかに必ず無理が出る。

    過去に受けた心理的外傷や挫折、苦しみというものはふとしたきっかけで生々しく蘇り、経験や信念や自信で以って築き上げてきたはずの地盤を容赦なく一気にグラグラと揺るがす。いままでの自分を形成してきたといえる強いようで実は脆いそれらが、「俺だからできる」という自己陶酔ではなく「俺はこうありたい、こうあるべき、こうであれ」といった自己暗示による産物であったら?

    弁護士時代に弁護を担当して裁判には勝ったものの、心に苦いしこりと大きなダメージを残す結果となった過失致死事件の被告・朝比奈と、今度は民間の交渉人という立場で芽吹は再会する。たとえ民間の交渉人でも、法が絡む依頼はそれなりに来るだろうし、その場合、交渉人は依頼人の不利益にならないように法律を解釈する知識や判断力が求められるだろう。だが、弁護士と交渉人では決定的に違う点がある。交渉人は弁護士のような、社会的・職務的に「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする(弁護士法第1条1項)」立場にはなく、またそれを求められてもいない。

    「検事は向いてなかった、弁護士はもっと向いてなかった、身の丈に合わないんだ」と云っていた芽吹だが、1〜3巻を読んでみて――そうだろうなあ、たしかにこれでは向いてない、法律家としての理想と現実の差にぶつかっただの才能がなかっただのという理由で辞めたというより、性格的に優しすぎて割り切れてない、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」を建前にすることさえなんだか苦労していたような、自己暗示ですべてを割り切ろうとしていたような、そんな検事&弁護士だったように思えた。もちろん交渉人になったからといって、芽吹が人権を軽んじたり正義を疎んじているわけではない。その突出した弁巧や理屈をこねる能力を、関わった人間それぞれの人生を大きく変えてしまう裁判のような絶対的なものより、もっと身近に話し合える民間の交渉事に使うほうが向いていると判断しただけで、それはそれで選択として間違ってない、前向きに自分をとらえて転向したなと思う。ただ、芽吹にダメージを与えた事件は他にもあると3巻で示唆されたので、そのあたりは決め付けずにもう少し見守りたい。

    交渉人として朝比奈を救うことはできず、結果的に同じ人物からまた別のダメージを受けることになってしまった芽吹。内なる苦しみに対峙したとき、自分がいったい誰を求めているのか、3巻にしてようやくぼんやりと自覚したようだ。もともと自分の気持ちに鈍感なうえ、兵頭となにもかも違いすぎることが目くらましになっていたのかもしれないが、高校時代からその対象が兵頭であったことは明白であり、芽吹は本能で彼を求めていたのと思う。再会した1巻、ドタバタやりながら少しずつ距離が近くなっていった2巻、芽吹の心理をセンシティブに描いた3巻。4巻はどうなるだろう?

    ラブの進展だけでなく、巻を追うごとに芽吹を巡る人々が増えてその絆が強くなっていくところも「交渉人シリーズ」の面白さだと思う。ネゴオフィスで働くさゆりさんにキヨ、兵頭の舎弟ズ、力士の花吹雪、アヤカに智紀、ホストのミツオ、そして芽吹の過去を知る弁護士・七五三野。みんな芽吹のことが好きで、彼を助けようとする。それは芽吹が人間として魅力的だからだ。

    「強いのか弱いのかわからない」と七五三野は云っていたが、たしかに芽吹は他人から見れば危なっかしく、無理をしているように見えるかもしれない。でも彼は自分の弱さを知っているし、傍には兵頭、まわりには仲間がいて、みな芽吹を察してくれている――それでいいんじゃないかと私は思う。ただ、芽吹だって毎回上手く立ち回れるわけではなく、失敗もするし、他人には理解しがたい内なる苦しみを抱え込んでしまうときもある。ドラッグで落ちてゆき、普段は明るく理知的な芽吹の苦しみが暴かれてゆくさまは読み手をどうしても暗い気分にさせてしまうが、芽吹を知るうえで外せないエピソードなので、彼と一緒に落ちていくような気持ちで読んだ。3巻はもっともエダさんらしい作品であり、深層心理をセンシティブについたストーリーになっていると思う。

    人間というのは複雑な生き物だなと、しみじみと感じ入ってしまった1本。

    @RECOMMEND@
    評価:★★★★☆(画伯ー!巻を追うごとに芽吹のルックスがどんどん若くなってきてますー!)
    絵師は引き続き、奈良千春画伯。2巻の感想でも書いたように、「挿絵は最後の最後ですんごいの♪」は、どうやら「交渉人」のお約束になったようで、この3巻でも最後の最後に画伯入魂のクリップ止め必至カットが登場。そして、これまた2巻の感想と同様、なんだか過去に同じような構図の同じような絵を見たような気がしたので、再び脳内検索の旅に出たらば――『エス』第1巻のカラー口絵のあった宗近&椎葉と同じなんだと気がついた。『エス』と『振り返る』の絵柄はかなり違うのだが、同じ構図で見ると「ああ、やっぱり奈良画伯だわー♪」と感じる(2巻と同じ)。

    4巻がいつ発売になるかわからないけど、画伯は半年でも油断ならないお方なので、きっとその頃にはまた変わられているんだろうなあ…<絵

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
    「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@マークがつきます。
    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。

    *2009年6月21日に書いた感想を加筆修正

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    榎田尤利 『交渉人は疑わない』 大洋図書 2008年 … 仕事もラブも実践躬行

    交渉人は疑わない (SHY NOVELS 213)交渉人は疑わない (SHY NOVELS 213)
    (2008/10/30)
    榎田 尤利 (挿絵:奈良 千春)

    商品詳細を見る

    前作『交渉人は黙らない』から待って待って待って…待ち続けて1年半。
    交渉人・芽吹「東京下町ネゴ屋細腕(?)奮闘記」&後輩ヤクザ・兵頭「悶々執着漫才ラブ記」、待望の続編。

    前作の感想で「芽吹の仕事っぷりをもっと読みたい」と書いたら言霊が飛んだのか、仮初ホストになるわ、エコでアロハ着るわ、手錠を掛けられるわ、ヤクザ事務所に乗り込むわ、ママチャリで激走するわと、依頼人だけでなく読んでいるこっちまで頭を下げたくなるほど、大サービス 大奮闘を見せてくれる芽吹である。

    今回は、「どんな過去を持っていても、本人が変わろうとしているなら信じたい」という芽吹のゆるぎない信念をメインに据えながら、芽吹の知らない兵頭の過去と一歩進んだふたりのラブの行方が描かれている。信念については、前作で芽吹自身からそれを持つに至った経緯がすでに語られていていること、芽吹の優しくて人から愛される性格が本編から十二分に伝わってくることから、「弱いけど強い、前向きでいい人だ…ちょっとオヤジ入ってるけど」と共感できるので、個人的には芽吹の体を張った交渉人っぷりと漫才ラブの行方が気になった。

    得意の舌鋒で交渉は見事でも、恋の操舵でフラつく芽吹。仕事では妥協しないくせにラブでは「ま、いっか」。メロメロメロウに流されない紆余曲折30代、でも結果的になんだか流されているような気がしないでもなく――正直云えば、もうちょっと兵頭をお待たせしちゃってもいい、寸止めでジタバタドタバタやってくれてもいいかなと思ったのだが…「ま、いっか」。

    作品によってはこれ見よがしな挿入と感じることもあるエダさんのセンシティブな心情描写だが、本作ではそう感じなかった。たとえば兵頭が心の傷を負うことになった過去のある事件とオーバーラップした芽吹のクライシスシーン――芽吹が兵頭の過去を知って、「おまえの顔はせつなかった。あんな顔させて悪かった。心の傷を抉るようなことをしちまって悪かった」と心の中で謝るところは、場を重くさせずに切なくさせた。芽吹はその思いを口に出さなかったのは、本気で悪かったと思っているだけでなく、兵頭自身がその過去の事件を語っていないからだ。普段の会話は漫才のようで語り口もざっくばらんなのに、シリアスの局面では兵頭を繊細に思いやる芽吹――そのギャップが絶妙で素晴らしかった。

    前作の感想で「エピソードがギュウギュウ詰めでもったいない」と書いたが、2作目でも笑いと感動の釣り合いが絶妙だと感じたので、このギュウギュウ詰めこそが交渉人シリーズのスタイルなんだろう。楽しませようという気持ちが伝わってくる。理にかなった笑い、芽吹と兵頭の屁理屈合戦、兵頭の舎弟でガードの伯田さんやさゆりさんにキヨ、頭は弱いけど情が深そうで面白い舎弟たちといった立ちまくりのキャラに、芽吹の友人・七五三野も加わって、今後の展開が楽しみな交渉人シリーズである。2008年のベスト1作品。

    @RECOMMEND@
    評価:★★★★★(行為を「掘削」と表現する受キャラだなんて前代未聞)
    絵師は前作に続いて奈良千春画伯。今回の兵頭はやや般若系でコワイのだが、他のキャラは表情が豊かでキュート、動きのある絵からほのぼのとした絵まであり、「おお!これは!」と感動していたところ、またもや最後の最後で画伯入魂のクリップ止め必至カット登場。「挿絵は最後の最後ですんごいの♪」も「交渉人シリーズ」のスタイルなのかも。油断禁物。で、その「すんごいの♪」を眺めていたら、なんだか過去に同じような構図の同じような絵を見たような気がしたので、脳内検索の旅に出たらば『エス』第1巻にあった宗近&椎葉と同じなんだと気がついた。『エス』と『疑わない』の絵柄はかなり違っても、同じ構図で見ると「ああ、やっぱり奈良画伯だわー♪」と感じる。でも「交渉人3」ではまた絵が変わってるんだろうな…。

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
    「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@マークがつきます。
    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。


    *2008年11月16日に書いた感想を加筆修正
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    榎田尤利 『交渉人は黙らない』 大洋図書 2007年 … 仕事もラブも紆余曲折

    交渉人は黙らない交渉人は黙らない
    (2007/02/23)
    榎田 尤利

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    挿絵が奈良千春画伯!レーベルがSHYノベルス!…とくれば、やはりまたヤクザなのか?…でもいいかげんヤクザは飽きてきたんだよなと一瞬フクザツな思いが過ぎったが、よくよく見れば書き手は榎田尤利。意味なく無体なことはしない作家だし、絵師はたしかに画伯でも表紙の肌色率は低く、凛々しいスーツ男がキリリと立っている。なによりタイトルからしてダーク系ヤクザものとは思えない。リーマンか弁護士?…否、受が交渉人(ネゴシエーター)で、攻がベンツではなくカローラに乗っているヤクザという、ちょっと毛色の変わったコメディだった。

    私も主人公・芽吹と同じで、ネゴシエーターなら「真下正義よりサミュエル・L・ジャクソン(映画「交渉人」)」であるが、BLで主役を張ってるのは初めて見た。ネゴシエーターなんてIQ高の駆け引き上手な腹芸職人は、読み手を唸らすほど弁が立つ説得力のあるキャラが書けないと確実にボロが出る設定である。だが榎田尤利、見事やってのけた。

    主人公に据えられた芽吹は、愛や恋が体と直結する10~20代の若者ではない「ラブより仕事」な30代。仕事だけでなくプライベートでも頭の中でも、彼は読み手に実況中継するかのごとく喋り捲る。その雄弁さと思考解析能力のスピードは素晴らしく、まさに「交渉人は黙らない」だ。

    攻の兵頭は、高校時代の恋の相手・芽吹にとんでもなく執着している下町ヤクザ。頭が良いので、弁の立つ芽吹を相手にしてもヒョイヒョイと切り返していける。そんな芽吹と兵頭の会話はテンポがあって楽しく、まるで夫婦漫才のようだ。数ページに1回は笑わせてくれる。感動させるより笑わせるほうが絶対的に難しい中、バカやオフビートギャグで笑わせるのではなく、主人公が交渉人なだけあって、たいへん理にかなった笑いを提供してくれるところが素晴らしい。BLでは「頭が良くて東大卒」なキャラが大安売りのごとく出てくるが、肩書きだけでキャラの頭の良さが実感できず、読んでて「そりゃないだろう、そんな行動するかよ」とため息が出てしまうことが多い。本作においてはそれがまったくない。ただ、全体的にエピソードがギュウギュウ詰めであることは否めず、急ぎすぎてもったいない印象がある。続編を考えていないのか、考えられていないのかはわからないが、芽吹の相棒・キヨや経理のさゆりさん、兵頭の舎弟ズなど脇キャラも立っているのでこのままにしておくには惜しい。

    どちらにしろ、続編希望だ。兵頭とのラブな展開、芽吹の仕事っぷりはもっと読みたい。追記:続編は来年の秋だそうです。来年?2008年ってこと?…遠い…。

    @RECOMMEND@
    評価:★★★★☆(兵頭から受け取ったと思われる成功報酬はいくらくらいなの?)
    ヤクザが出てくる作品だが、他人に見られたら心底マズい「人目注意報」発令なカラー口絵はなく、本編中の挿絵数点においてはほのぼのさすら感じられ、「奈良画伯でほのぼの?うわ~ん嬉しい☆」とその喜びで胸いっぱいのまま読み進めていたところ、最後の最後で画伯入魂のクリップ止め必至カット登場。別の感情から泣きそうになった。うおおお!!油断してしまったあああーーっ!!これから本作をお読みになるご予定の方、電車の中などではご注意を。…隣の席のおじさんに見られてしまった…。

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
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    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。


    *2007年5月1日に書いた感想を加筆修正
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    プロフィール

    秋林 瑞佳

    Author:秋林 瑞佳
    「あきりん・みずか」と読みます。
    (BLCD感想はジョセフィーヌ秋太夫が担当)

    風来のネットサーファーにして、
    ハンパない映画ギーク。
    そしてなにかと悩める電脳仔羊。

    気の向くまま、
    ネット場末で人知れず更新中の、
    BL感想&レビューブログです。

    >>ネタバレ上等<<
    なので、お気をつけ下さーい!

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