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    榎田尤利 『はつ恋』 リブレ出版 2009年 … 今だからわかること

    はつ恋 (ビーボーイノベルズ)はつ恋 (ビーボーイノベルズ)
    (2009/10/19)
    榎田 尤利

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    2009年に出版された榎田尤利の作品。弁護士×元教師にして教え子×高校教師(ともに形式は一人称)。
    何事も理論と合理性を優先してきた自己中心的な男が、初めて恋のよろこびと苦しみを知り、そして豊かな人間性を取り戻していく話。

    多重責務専門弁護士の久我山は、付き合う相手は自分の好みやそのときの欲望に適う者くらいという自己中心的で計算高い男。その見目の良さと周囲に対しての社交辞令を欠かさないスマートさからボロを見せたことがなく、大きな失敗や挫折とは無縁の人生を送っている。ある日、友人から「高校時代のクラス担任教師が死んだ」と連絡を受けて葬儀に参列するが、久我山は元担任・曽根のことを思い出せない。すっきりしないまま斎場を出ると事故に遭遇、気を失ってしまう。やがて目が覚めると、なぜかまわりも自分も14年前の世界に戻っていた――と、最初はごく普通の再会モノ年下攻だと思っていた話にタイムリープな展開が待っていた。

    時は1994年。17歳の久我山の体に31歳の精神が宿っている。だが不思議な現象でタイムリープしてしまったことへのパニックや、どうやって未来に戻ろうか?といった焦りが久我山にはなく、それどころか落ち着いて理性的に対応して順応していこうとする。どんな状況になろうともすべては理に適うはずだという彼の性格がよく表れており、(共感するかしないかは別として)そのよどみなさは見事である。

    そんな「17歳の体だけど31歳」の久我山が、やがて初めて真剣に恋をする――相手はすっかり忘れていたはずの担任教師・曽根。17歳のときはなんとも思わなかったのに、31歳になって再会(?)してみると、24歳の曽根は好感の持てる青年で素晴らしい教師だった。あるきっかけで曽根が苦境に立たされていることに久我山は気づくが、31歳として弁護士としての知識と経験から曽根を救える手段を持っていても、立場が「教師と生徒」「24歳と17歳」である以上、相手には受け入れてもらえない。そのジレンマで久我山は苦しみ出す。

    また恋愛と同時に久我山の複雑な家庭も描かれている。17歳とは違い、31歳になれば母親の立場や気持ちを推し量ったり考えたりすることができる。親の気持ちはわからないでもない、同情の余地だってある。でも再び不仲を目の当たりにしたとき――久我山は体に同居する17歳の自分は傷つくはずだ、それに耐えられる31歳の自分が代わってやりたかったと思いやる。31歳の目に映る17歳の世界――曽根への失恋、両親の不仲、同級生たちの無関心さを通して、久我山は自分の傲慢さやどうにもならない無力さに気づいていく。

    曽根は教師である前に24歳の青年。前述した苦境は、相手に問題はあるとはいえ自ら決断できないせいでもあり、それは優柔不断というより性格的に優しいから、そして恋愛経験があまりなく相手を見極める力に欠けているからで、拒絶は難しいかもしれない。また自傷してまで生徒をイジメから救おうとする教師ぶりは、すべての生徒がそうとは限らないだろうが、「なに熱くなって」と高校生の目にはダサく映るかもしれない。

    「31歳」「38歳」「17歳」「24歳」――この作品ではそれぞれ年齢通りの経験や職業に基づくキャラの行動、思考、言動が的確に描かれている。その中でも秀逸なのは、変化していく久我山の心情描写である。中身は31歳である17歳が免れない失敗や挫折を経験して、「本当の自分は弱く、今まで虚勢を張っていただけ」と自覚していくさまにはとても説得力がある。本来は持っていただろう人を思いやり愛する気持ち――豊かな人間性を次第に取り戻していく姿は感動的である。

    曽根に関しては、38歳の曽根視点による短編で「今だからこそわかる、あの時はまだその時ではなかった、時間が必要だった」と24歳の自分を振り返る姿に余裕と時間の経過の意味が感じられ、「友人というポジションを失うくらいなら、この思いは秘めておいたほうがいい」という彼の思いのせつなさに、私は強く共感した。

    そうだ、そうなのよ、年齢を重ねないとわからないことがある――これもまた同時代性の否定であり、31歳視点の17歳、24歳を振り返る38歳を描くことでそれを表現したエダさんの上手さに、とても感動した。

    実は好き合っているふたり。再会しても簡単には結ばれない。なぜならふたりの間には、経てきた時間がまだ介在するから。でも久我山はタイムリープによって曽根ほど「思い出」にはなっていない。だからこそラストにおける久我山の切羽詰まりぶりが滑稽で「お前なあ」とつい吹き出してしまったし、意識のタイムラグから発生するふたりのジタバタぶりに愛おしさが感じられた。

    タイムリープの意義やタイムパラドックスにこだわる人にはヌルい設定だろうが、タイムリープはもともと意識的に始まって終わるものではないと思っているし、よくよく読めば「17歳の立場で31歳の初恋を描く」手段に過ぎないとわかるので、私はあまり気にしないしこだわらない。曽根視点の短編がないと話が続かないという指摘も、2篇収録の1冊読み切りとして書かれた作品なので問題はないし、BLではよくある手法だと思う。

    読み手の年齢が若干高くないと細かい共感は難しいかもしれない。それでも同時代性の否定を信じる人にはオススメしたい1本。

    「先生だったらなんだってあげていい。お返しは、なにもいらないよ」

    @RECOMMEND@
    評価:★★★★★(エダ作品1冊完全読み切りなら、私は本作がベストでもっともお気に入りになりますね)
    エダ作品には「夢の暗示」「親子の確執」「死の誘(いざな)い」がよく出てくる。それは(すべてがそうではないだろうけど)エダさんの経験からくるものじゃないかしら?

    携帯電話がまだ一般的でなく、インターネットもほとんど知られておらず、DVDやブルーレイではなくビデオが主流で、言葉の使い方も今とは違う時代――大昔ではないけれど、やはり古さはある。そのギャップが上手く描かれていたなあと思う。たとえば、本編中に出てきた映画タイトルの選択。映画ギークとして感じ入ることしきりだった。「シザーハンズ」「T2」の2本で、どちらも90年代初めの作品で名作なんだけども…たぶん曽根は学生時代に観たんだろうね。それを教師になってから高校生の英語の授業で引用したり、部屋で久我山と一緒に観たり――ああ、なんて時代と状況にピッタリでわかりやすいタイトルを選んでるんだろう!ホント感動。

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
    「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@マークがつきます。
    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。

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    プロフィール

    秋林 瑞佳

    Author:秋林 瑞佳
    「あきりん・みずか」と読みます。
    (BLCD感想はジョセフィーヌ秋太夫が担当)

    風来のネットサーファーにして、
    ハンパない映画ギーク。
    そしてなにかと悩める電脳仔羊。

    気の向くまま、
    ネット場末で人知れず更新中の、
    BL感想&レビューブログです。

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