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    一穂ミチ 『シュガーギルド』 新書館 2011年 … 甘く切ないクレッシェンド・ラブ

    シュガーギルド (ディアプラス文庫)シュガーギルド (ディアプラス文庫)
    (2011/10/08)
    一穂 ミチ

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    ディアプラス系で活躍中の作家・一穂ミチによる10月の新刊。

    8年におよぶ英国駐在ののち、日本に戻ってきた達生。懐かしい本社に出社してみると、かつて一夜をともにした男・和が黙々と仕事をしていた。思いがけない再会に達生は驚く。あの頃、和は大学生、自分は渡英直前の会社員。無計画の北海道旅行で出会い、関係は一夜限りだった。だがいまや同じ課で働く上司と部下。どう対応すべきか?と距離をはかりかねている達生に対し、和の態度はずいぶんとそっけないもので――という再会モノ。上司×部下。

    あらすじだけを読むと、行きずりで関係を結んだ達生が和を一方的に捨てたという惨さが感じられるのだが、読んでみると、「行きずり」「捨てた」といったネガティブな言葉はそのまま当てはまらないような印象を受けた。それはこの物語の視点が主人公・達生にあり、その達生自身が北海道旅行で出会った和との触れ合いをいい思い出にしているからで、その場面を読んだ私ですら「いいな~」と思ったほどだった。偶然に出会ったふたりによるたった数日間の旅行。北の大地で心癒されながら「この人と一緒にいると楽しい」「ずっと一緒にいれたらなあ」と思ったら、それはなにか運命的なものを感じるし、体を重ねたり恋に落ちるのもごく自然なのではないかと私は思う。だが期日が決められた観光である以上、いつかは必ず日常に戻らねばならない。達生はすぐに戻れるだろうが和は?…たったひとりベッドに残された和はどう思っただろう?

    もし和が達生と同世代アラフォーという設定だったら、そのとき「いい思い出」と割り切ったかもしれない。あるいは再会したとき「今隣にいる人じゃなく、この人を選べばよかった」と軽い後悔をしたかもしれない。だけど和は地方出身の純朴な19歳で、そんなに色恋に経験があるわけじゃない。運命的でロマンティックな恋、相手も自分とは10歳近く上でユーモアのある素敵な大人。だったら…忘れられない、しばらく引きずってもおかしくはないのではないだろうか。

    ほかの一穂作品同様、攻が受を好きになる過程がややわかりづらいかなと最初は危惧したが、再会後の話を軸に過去のエピソードが挿入され、それぞれの気持ちが丁寧につづられていったので、最終的に私はどちらにも共感した。和(受)でなく達生(攻)が主人公だったことがよかったのだと思う。「海の『凪』?」「いえ、和むの『和』です」――8年の時を経て繰り返される会話。私が和だったら?…泣き出してしまったかもしれない。わかりやすい感情説明が多いとはいえないので、いろいろ想像しながら(行間を読みながら)じっくり集中して読んだ。

    一穂さんの作品はどの作品も静かに淡々と話が進んでいく。だがクライマックスに向かい始めると、クレッシェンドがかかり、そして一気に盛り上がっていく。透明感のある文章や表現に恋の情熱が加わる瞬間が私は大好きで、一穂作品を読むときにいつもそれを期待する。本作では、和に対してどうしていいか思い切れずにいた達生が、和の気持ちを知って飛び出す場面がとても叙情的で心打たれた。

    ただ、気になるところがないわけではない。達生が年齢相応に見えにくい。38歳で「失ったものばかりを考える」というのはまだちょっと早い。もちろん、いつそう考え始めるかは人それぞれで個人差があるし、年を重ねていくのに感傷をまったく感じない人なんていないし、若い社員と話したり、環境の変化や8年のブランクを埋めるいくうちに、過去を振り返ることは往々にしてあるだろう。だけども38歳の男(しかも海外勤務までしている)なら「失ったからこそ得られたもの」「今だからわかること」があるはずで、そういった経験値は過去への感傷と同様の愛しさを感じないだろうか。それが描かれていないので、それを描ける作家との差を感じてしまい、軽く30過ぎた私が読むと「背伸びしているかな」と思ってしまう。

    もうひとつ、和の最終的な選択も引っ掛かる。郷土や仕事に対して真摯な思いがあるのに、なぜ蹴ってしまったんだろう?今そのときでないから?…BLだし、レーベルもディアプアラスだからそれがベストのハッピーエンドでは?と云われると…心の中は少々複雑である。

    引っ掛かりを感じる箇所はすべて個人的な見解なので、あまり気にせずに本作を手にとってほしいと思う。

    評価:★★★★☆(私は好きだなあ、こういう話)
    私はたぶん一穂さんを贔屓しているんだろうなあ。もちろん今まで読んだ作品の中でも、イマイチだったり面白いと思えなかった作品はあって、全作品を高評価するつもりはないけれど。一穂さんが拙いなんて、思ったことないよ。素敵な文章を書いているし、小説を書くときの約束事だって守ってる(「―(ダッシュ)」「…(三点リーダ)」を使うときはふたつ使うなど)。今時のライトノベルでよく見かける「……、」や「――、」などほとんど使用しないから、内容うんぬんの前にまず文章の見た目(字面)が美しい。なので「文章を書く/物語を描く」ことに関して、硬派な作家なんじゃないかなあ。デビュー以降、コンスタントに作品を発表しているので、私の中では好感度が高い。作品が世に出たら「人から評価/批評されること」に慣れなければならないのに、その痛さを伴うハードルに新人の頃からずっと挑んでいる。あと数年したら、年齢上のキャラクターをもっと深く描けるんじゃないかとものすっごい期待しているので、頑張って欲しい。

    ZERO STARS … 論外/問題外作
    ★ … お好きな人はどうぞ。
    ★★ … つまらない。
    ★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
    ★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
    ★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。

    「オススメ作品」は基本的に★★★☆以上。
    「絶対オススメしておきたい作品」には@RECOMMEND@マークがつきます。
    性格上の理由から、★評価は厳しくなりがちなので、★5つ作品はあまり出ないと思います。


    以下、なにを以って透明と感じるか、その「感性の違い」についての話を少し。
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    秋林 瑞佳

    Author:秋林 瑞佳
    「あきりん・みずか」と読みます。
    (BLCD感想はジョセフィーヌ秋太夫が担当)

    風来のネットサーファーにして、
    ハンパない映画ギーク。
    そしてなにかと悩める電脳仔羊。

    気の向くまま、
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    BL感想&レビューブログです。

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